悪魔の日記
プロローグ・Lの日記
今日から日本語で日記をつけることにする。
月に日記帳をもらったからだ。あまり嬉しくない経緯がここにある。
彼には言いそびれていたのだが、例のあれを、私はずっと日本まで隠し持ってきていた。
何故かというと勿論それには理由がある。死神がこう言ったからだ、「所有権を失うと、これにまつわる記憶も失う」と。
ワタリの死にまつわる一件を忘れたくなかったといえば聞こえはいいが、正直、かけらでも自分の記憶がなくなるという事態が鳥肌が立つほどいやだったのだ。
なのであの時、あれを燃やすふりをして、予め用意したダミーを燃やし、死神を騙した。そのあと自分が死神に殺される可能性も考えたが、それでも最期の瞬間まで自分のものである記憶をすこしでも失うなど冗談ではなかったのだ。極限の精神状態でも悪知恵が働くところは我ながら……日本語では何といえばいいだろう?
とにかく、そんなわけで、月にも言っていなかったが私はあれを隠して日本まで持ってきていた。
ところが、うっかりしていて月に見つかってしまったのだ。
彼は一目で何か悟ったようだった。私の方を何か言いたげな目で見ていた。
これは何かと聞かれたので、日記だと答えた。中身はまっ白で、これから使う予定なのだと言ったが、月が信じた様子はない。
あろうことか、自分にくれと言ってきた。断ったが、では貸してほしいという。
明日からでも日記をつけるつもりだったのだというと、ではきちんとした日記帳を自分が買ってあげると言って、彼は部屋を出て行った。
しばらくのち帰って来た彼の手には、立派な皮表紙の日記帳(これだ)があり、プレゼントと言われてはもう断る口実もない。
考えてみると、すぐ言えばよかったのだが。記憶を失いたくないから持っていたのだと。
しかし一度言いそびれてしまうと、言い訳じみてしまってなかなか言いにくい。
私があれを隠し持っていたことについて、月がどう思っているのかと思うと気分が沈む。
正直に言うと、彼がこの日記を隠れ読んで事の次第を理解してくれるのを私は望んでいるわけだが、良識派の月のことだからそこは期待できないだろう。
そんなわけで、日本での生活の滑り出しはやや…気まずい。
月も、休んでばかりいたせいか学業が忙しそうだ…
今、テレビで気になるニュースが入った。
心臓麻痺で、執行猶予中の人間が死んだとか。
キラかなどと言われている…見る限り、あの子たちの情報操作とも思えないので偶然だろうか?
それはさておき、探偵を始めるにあたってのフルネームを考えなくてはならない。
日本では、苗字と下の名前がそろっていないと、探偵職の様な信頼を必要とする仕事には就きにくいようだ…厄介だ。まあ、それは先進国ではどこも同じといえよう…。
なんでもいいのだが。竜崎、という月が読んでくれる名はそのまま使いたい。あとで月に相談してみよう。
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