悪魔の日記

 

 

気付いていたよ。

お前が僕を疑ってると。

でも止められなかった。

 

4.捜査

 

 

 

 

 『あなたに協力する前にひとつだけ…いや、ふたつ、はっきりさせたいことがある。あなたが持っている情報がどういう類のものなのか、またなぜあなたが事件の解決を望むかだ』

 そう、夜神総一郎は言った。
 皮肉にも、月の父親である彼がキラ事件捜査本部の指揮を執っていることは以前から知っていた。直接会えるとは思っていなかったが、これも何かの巡り会わせなのだろうか…それともハンデとなるか。

「私が持っている情報は、人を心臓麻痺で殺す方法です。私は四人の死刑囚をその方法で殺しました。そして、その手段を奪われた。この事件の発端は私の不始末でもあります。ですから責任をとってこの事件の収束を望みます」
『あなた自身がキラではないという証拠は何かあるのか』
「ありません。私自身を信用していただくしかない」

 言ってて自分でも厳しいと感じたが、それでも総一郎は竜崎を信じたようだった。息子の人を見る目を信じたのかもしれないし、「殺し方」という情報を、喉から手が出るほど欲しかった…というのもあったのかもしれない。
 総一郎が連れてくるメンバーは、彼を含め五人ということだった。仮名と経歴を聞いていてその中に、今日会ったというあの若い刑事が入っているのを聞き、竜崎はいささか不安を感じた。結果的には助かったが、彼は捜査本部に自分を取り次いでなにかあったらどう責任をとるつもりだったのだろう。
 竜崎は帝東ホテルの名と時刻を告げると、部屋番号は追って直前に連絡する…と告げ、電話を切った。

 

 

「竜崎です」
 竜崎が名乗ると、五人の捜査官たちは軽く会釈した。それぞれ、朝日、相原、松井、模地、浮島と名乗った。今は警察官はキラ事件に関する捜査では本名を避け、会議等でも名を呼び合うのを避けているということで、それらは偽名とあらかじめ断られたがそもそも本名に興味はなく区別できればそれでいい。それに殺人方法を知っている竜崎にとってもその方法は実に効果的であると思われた。
 今日は空いていたスイートルームの奥の部屋に五人を案内し、ソファに座ると、松井と名乗った今日取次ぎをしてくれた刑事が、相原に「ほらほら!」と耳打ちして殴られているのが目に入った。
 刑事たちもソファに腰を下ろす。あらかじめ聞いた話では、総一郎は竜崎のことを面々に「ICPOが寄越した探偵」と説明しているらしい。Lだと知れば、正義感が強い警察官の中には竜崎を告発したり反発したりするものも現れるかもしれないから賢明であると言えた。もっとも、必要であると判断したら時期を見て竜崎のほうから告げるつもりではあったが。

「早速ですが、キラが殺人を行っている方法を説明します」
 捜査員たちがごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。

「申し訳ありませんが、私がなぜそれを知っているかの説明は後回しとさせていただきます。殺人の方法ですが、ある紙に、名前を書くことです…」
「え?」
 間の抜けた声が数人から上がった。
「かみに名前を書く…?」
「そうです、更に詳しく説明するなら、このくらいの大きさの冊子です。その紙面に名前を書き、書いた人間が書かれた人間の顔を知っていた場合、書かれた人間は死ぬのです」
「ふざけているのか!?」
 相原と名乗った刑事が立ち上がった。
「そんな冗談を聞くためにこんなところまで呼び出したのか!?」
「冗談ではありません」
 簡単に信じてもらえないだろうとは思ったが、激昂されると話が続けられない。竜崎は刑事にとにかく座る様にと告げた。

「待て竜崎…一体、それはどういう由来のものだ?何の目的で生み出された?」
 総一郎が他のメンバーをなだめるかのように説明を求めた。
「人が作った物ではないと思います。人を超える力を持った何か…あえて言うなら、死神でしょうか」
「ば、馬鹿にするな!」
 今度は浮島と名乗った刑事が喧嘩っ早い声を上げた。

「キラは死神だとでも言うのか!?死神がリストに名前を綴っているだけだとでも…」
「それとも、Lが死神だったとでも?」

「今、キラとして裁きを行っているものは、以前Lと呼ばれていた者ではありません」
「説明してくれ」
「そうだ、そしてどうしてあんたがそれを知っているのかも」
「………」

 命をかけた捜査に協力してもらうには、こちらも何かを賭けるべきなのかもしれない。
 竜崎は「分かりました」と置いてから、やむなく続けた。

「最初にそのノートを拾ったのはLです。それは黒い表紙のノートでした。そして表紙の裏には使い方が書いてありました。このノートに名前を書いた人間は死ぬと。彼は、信じませんでした」
「まあ…そうだろうな」
 信じるはずがない。捜査員たちは頷きながら先を促した。
「そして、そのノートに戯れに、ケンカ中の父親の名を書きました。しかしそれは彼の人生のなかで、もっとも愚かな行為でした。なぜなら名を書かれた父親は説明書きのとおりに死んでしまったからです。Lは自暴自棄になり、ノートを使って死刑囚四人を殺しました。そしてその後、何もかもを投げ出しイギリスの片田舎で隠遁生活を送っていました…ノートをその手に持ったまま。しかし、そのノートが最近、奪われました」
「それがキラの裁きが増えた理由だと言うのか?」
「しかし、隠遁生活を送っていたというなら、この一年の間続いていた裁きはどうなる?」
「続いてた裁きはLによるものではないということです。毒薬などを用いた模倣事件でしょう」
「なぜ、あんたがそんなことを知っているんだ?」
「…………」

 竜崎は返事に窮し、総一郎を見た。やはり、明かさないうちは信じてはもらえないということか。総一郎は、沈痛な面持ちで小さく頷いた。

「なぜ知っているか…それは、ノートを奪われたのが私だからです」
「………え?」
 竜崎と総一郎を除く全員が戸惑いの声を上げた。

「奪われたって…じゃあ…」
「あんたはLの…いや、もしかして…」

「そうです、私が……Lです」

 竜崎の言葉に、その場にいた全員がシンとなって彼を注視した。

 

 竜崎にしてみれば、自分のしでかした不始末の後始末を頼むようなもの。更に死刑囚とは言え四人の人間を殺している自分を彼らが信じてくれるかどうか、非常に不安ではあった。
 しかし、父親を自分の手で殺してしまったという話は彼らの心に何やら効果をもたらしたようで、その後は根掘り葉掘り聞いてきたり無闇に疑ってきたりすることはなくなった。「信じてもらえたのでしょうか」と聞くと、「ノート自体の存在はともかく、竜崎の言葉に嘘はないと信じる」ということだった。
 懸念したほどの反発もなく、竜崎は内心胸を撫で下ろすと、今後の捜査方針について話し合うことにした。

「二つのアプローチから真相に迫ることができます。ひとつは、私のノートを奪った犯人を捜すこと、もうひとつは、FBIの死を探ることです。ノートを奪った犯人は私が独自に追うつもりです、みなさんにはFBIの死について調べていただきたい」
「FBIの死について?」
「先ほど説明したとおり、ノートに名を書いて人を殺すには、顔と本名を知っていなくてはなりません。ですから私はFBIに協力を要請したとき…正確にはコネを使って要請を頼んだときですが…絶対に本名を日本国内では明かさないよう、厳重に言い渡してありました。それがあんなことになったというのは腑に落ちません。彼らは本名を明かすと殺されるということを知っていた。ですから、本名を知られるまでの間になんらかの犯人との通常では考えられないような接点があったと見てしかるべきです。聞き込みなどでそれが明らかになるかもしれない」
「なるほど…」
「また、彼らが亡くなった場所には監視カメラのあったところもあるはずです。警察官の立場でそれを手に入れていただき、こちらでチェックすることは可能ですか?」
「ああ」
「ではお願いします…それと、ノートを追う方の話ですが…夜神さん」
「なんだ?」

 そろそろ、本気で心構えをしなくてはならない。

「息子さんに、捜査協力を願ってもよろしいでしょうか」
「月の?」
「息子さんが、過去に何回か助言による事件解決を引き出したということはご本人から聞いて知っています」
「しかし…なぜ自分で連絡しないんだ?」
 うすうす分かってはいるのだろうか。総一郎は躊躇うように竜崎に尋ねた。
「…連絡がつきません」
「……竜崎」

 捨てられて、復縁を迫る未練がましい行為と彼にはとられるだろうか。しかし、月と会うことは竜崎にとって、そんなことよりも…総一郎が思っているよりもずっと…強い意味を持つこととなる。
 それに、腑に落ちないのは彼も一緒だろう。元旦にあんなカミングアウトをしでかしておきながら、その舌の根も乾かぬうちに彼女とは。どんな女かは知らないが…
 ふと竜崎の胸に、1月2日上野のアトレで見かけた女性の姿が浮かんだ。

「分かった竜崎、話しておこう」
「お願いします」

 ノートを取り返さなくては。
 ああ、しかし、できることならば、月がすでにノートを持っていませんよう。
 捜査員たちにFBIの死について調べてもらうことは、その竜崎の希望をじわじわと切り崩させることになるかもしれないのだったが。

 

 そうして、もし進展があればその時点で、何もなければとりあえず三日後にまたこうして集まろうということになり、その場は別れた。

 

 

 

 

 翌日。
 ネットで情報をあさりながら夜を明かした竜崎は、軽くシャワーを浴びてからコーヒーを入れた。
 月が一緒に居ない今、自然と生活はまた以前の不規則なものに戻っていった。飲み物もコーヒーが増える。紅茶と違ってセットしておけばできるからだ。味は変わらない。淹れ方によって不味くもうまくもなる紅茶とは違う。ワタリも月も居ない今、自分で紅茶を淹れてまで飲みたいという気はしなかった。どうしても味わいたいときは喫茶店に行けばいい。

 その時、携帯が鳴った。
 開くと、「月」の文字があり、ドキンと心臓が高鳴った。
 月…。月…。なぜ今頃?
 そうか、総一郎が頼んでくれたのだろう…聞かなくては。この事件は、このキラの仕業とされている一連の事件は、あなたとは関係ないんですよね?あのノートは奪われたんですか?どうして電話に出てくれなかったんですか?どうして…
 しかし、指がこわばってしまいうまく携帯を開けない。あせってなんとか電話に出た時はすでに10回ほどもコール音が鳴っていた。

「…月くん?」
『竜崎、玄関開けて』
「え?」

 唐突な言葉に一瞬頭が真っ白になるが、ふらふらとリビングを出て玄関の鍵を開けると、ガチャリと扉が開いて、そこに月が立っていた。

「月く…どうしてここが」
「会いたかったよ竜崎。やっぱりここにしたんだね。管理人さんがあの時おまえと一緒に部屋を見に来た僕の顔を覚えてて、部屋を教えてくれたんだ」
 そう言いながら月は玄関に足を踏み入れ、靴を脱いであがると、竜崎の身体を腕に抱いた。
 竜崎は混乱して、身体がこわばったまま動けなくなった。

「会いたかった…?私に?」
「そうだよ」
「じゃあどうして…電話に出てくださらなかったんですか?」
「忙しかったんだよ、ごめん」
 月は腕をほどくと竜崎の頬を撫で、軽く唇にキスをした。頬に、まぶたに、また唇に。軽く繰り返されるキスが、やがて深いものに変わる。
「…ん…」
 二週間ぶりでもやはり月のキスは以前のように甘く竜崎を蕩けさせるもので、その腕の中で竜崎は泣きたくなった。どうして自分はこんなに弱いのだろう?早くこの胸を突き飛ばして誤魔化すなと、あのノートを返せと、お前がキラなのだろうと、問い詰めなくてはならないのに、どうしても…
 二週間砂漠をさまよってようやく見つけたオアシスのようなその口付けを、竜崎はどうしても自分からやめることができなかった。

 

 

 月と会わなくなってからまた竜崎は椅子で寝る生活に戻ってしまっていた。だから部屋には綺麗にメイキングされたものの、一度も使ったことのないベッドがある。月は抱き上げた竜崎を、そのシワ一つなかったシーツの上におろした。そしてまた一刻をも惜しむかのように唇を重ねてくる。
 二週間放っておかれた身体は月の愛撫に反応してすぐに熱を上げた。指先が肌の敏感なところを衣類の上からもしくは直に、触れるたびに甘い刺激を背筋に送り込んでくる。
 どうかしている───そう思う。この男は大量殺人犯かもしれないのに。
 最初の一週間で100人、次の一週間で80人…殺された犯罪者の累計などという無粋な思考をもってしても、この圧倒的な誘惑の前では霞みのように消えうせる。
 どれほど、この時を…どれほどこの腕の中を待ち望んでいただろう?
 もしかしてもう会えないのかと思っていた。こんな風に抱き合う日などもう来ないのかと。日本に居る意味などないのではないかとも思った…メロの居るロスか、ニアの居るニューヨークにでも行ってしまおうかと。日本に留まり続けたのはノートを持ち込んでしまった責任をとらなくてはという罪悪感の意識からのみでしかないのだと、自分でもそう思い始めていた。思い込もうとしていた。
 しかし、そうではないのだ。
 そうではないのだと…ただ少しでもそばに、会える望みがあるのならそれだけでも待ち続ける意味はあるのだと…
 そんな自分の真意を、どれだけ自分が月を求めていたのかを、竜崎は彼の腕の中で悟った。

 

 

 月が竜崎の耳の後ろにキスをしている。
 後ろから月が竜崎の身体を抱きながらゆっくりと腹や腿を撫でている。
 そんな余韻の中でも、竜崎はもしかしてまだこれが夢なのではないかと疑っていた。気がつくと自分は一人でテレビの前のソファに収まっていて、月が部屋に来たなど夢なのではないのかと。

「月くん…」
「…ん…?」
 耳たぶを甘噛みしながら月が気だるげな声を返した。
「もう会えないかと思っていました」
「…なんで…?」
「連絡がつかないまま、二週間も経ってましたし…」
 彼女ができたと聞いたので、と口に出そうかどうか迷ってやめた。
「そうか…ごめんね」
 月は竜崎を振り向かせて抱き寄せた。
「ずっと大学を休んでたから、書かなきゃならないレポートとかいっぱいあって、研究室に泊り込んだりしてたんだ。寂しい思いさせてごめんね」
「…はい…」
 チュ、と唇を吸われて、その胸に頬を寄せながら、竜崎の勘が月の言葉を嘘だと感じた。

「ところで、あれを持ってきてくれましたか」
「…あれ?…なんだっけ」
 分かっているだろうに。
「ノートです。次に会った時に返してくれると」
「ああ…忘れてた」
「だと思いました…まだ月くんが持ってるんですよね?」
「うん、返すって、約束したろ?」
 持っている…。いっそ嘘でも何でも手放したと言ってくれたほうが少しは安心できたろうに。
 竜崎は顔を上げて、月と視線をあわせた。

「あと、もう一つ…お父さんから、聞いてませんか?」
「ああ、捜査協力のこと?構わないよ、もう忙しい時期は過ぎたし。やっとだけど」
「すみません、直接電話すればいいのにご家族を通すような不躾な真似をして」
「構わないよ」
 月の手がゆっくり竜崎の髪を撫でる。
「僕もニュース見て驚いたよ…ニアたちの情報操作や模倣事件なんかじゃないことは明白だし。お前がどんな思いでいるか、心配してた。ずっと放ったらかしにして本当にごめん」
 その言葉が真実であればどんなにか心が潤うだろうか。

「どうすればいいかな?そもそもなんで竜崎がキラ事件にかかわることになったの?」
「…黙って見ていられなくなり…警察に行きました。そうしたら月くんのお父さんと偶然出会えて…」
「自分がLだって明かしたの?」
「はい」
 すると、月の表情が一瞬だけ冷たく凍った。

「ねえ」
「はい?」
「竜崎の本名ってなんていうの?」
 唐突な質問に、竜崎は背筋が凍るような錯覚を感じた。

「え?な…んですか?急に」
「だっておかしいじゃないか…恋人の名前も知らないなんて。教えて?」
「名前…ですか…」

 それを言うなら今更聞いてくること自体が不自然なのではないか。
 しかし反論することもできず、さりとて簡単に教えるわけにもいかない。目の前の男がキラかもしれない可能性は依然として高い。

「名前は、ないんです」
「ない?」
「私は孤児なので、名前はないんです。孤児院では番号で呼ばれていて、探偵の仕事を始めてからも様々な偽名を使っていたので…決まった個人名は持っていないんです。だから竜崎が本名と思ってくださって結構です」
「ふうん…」

 納得したかどうかは分からないが、一応は誤魔化せたようで、月はそれ以上は追及してこなかった。
 本当はワタリがつけてくれた名前があるのだが、それを今は月に話す気にはなれなかった。もっとも二週間前までなら喜んで明かしたのだろうが。

「捜査協力って、何したらいいのかな…」
「あ…そうですね、では…とりあえず今は、私に事件についての意見を聞かせていただけるだけでいいのですが…月くんは頭がキレますから」
 ノートを今持っていないと言われればそれを一緒に追おうと提案するつもりだったが、持っていると言われればそれまでだ。
 FBIの死について洗う仕事は月には任せたくなかった。正確に言うと他の捜査員を月に会わせるという危険に晒したくなかった。これに関しては意見を求めるだけにとどめたい。
 竜崎はベッドから出ると服を直し、パソコンのところまで行き資料をプリントアウトした。

 

「これは殺されたFBIの資料なんですが、これを見てどう思いますか」
「FBI?見せて」

 リストを見た月は眉一つ動かさずに「関東で殺されたの?」と驚いたように言った。
「なんで関東にいたのかな?」
「犯罪者の殺害の状況を見て、キラは日本の首都圏に居ると判断したようです」
「状況?」
 演技だとしたらたいしたものだ。もう、分かっているのだろう…あのノートが殺人ノートであり、持って行った月を自分が疑っているのだということを。そう竜崎は思うが口には出せない。
「一連の殺人の発端とも言える犯罪者の死は、音原田九朗という犯罪者の死でした。この犯罪者は新宿で無差別に六人の人間を殺傷したあと、人質をとって立てこもっている最中に現在のキラによって命を奪われたと思われます。この立てこもりのリアル中継を行っていたのは日本のみでした。それで同じように死刑囚を使った作り物のリアル犯罪中継を地区別に行ったところ、真っ先に関東でひっかかったそうです」
「引っかかった…その犯罪者が死んだってこと?」
「はい」
 実際は偽のリアル中継など行っていないのだが、月に対する疑いを直接見せることはできない。

「竜崎は、例のノートによる犯罪だと思ってるの?ふたたびアレがどこかに現れたと?」
「そうであると確信しています。ですが」
「?」

「音原田九朗にしても、他の犯罪者にしてもそうですが、一年前に私が行ったあの放送のあとから徐々に、各国で犯罪報道の際、犯罪者の本名を一部伏せるか、偽名で報道することが増えています。犯罪者の身の安全のためということですが…。ノートによる殺人であれば、名前が分からなければ殺せないはず。そうでしたよね、そこだけが…」
「…そうだね…」

 月は少し寂しげな表情で頷いた。

 

 

 

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