ピアノ

 

 目の覚めるような位置に叩き付けられた高音から、流れるように一気に滑り落ちる。
 そしてまた音が跳ね上がり流れ落ち…更に高く…

 テルは、目の前で滑らかに踊る四宮の指に見とれ、感嘆の息をもらした。

「すごいな…」
 曲のあと、うっとりしてテルがいうと、四宮は座った位置からそんな彼を見上げ、軽く笑った。
「キミもショパン好きなんだ?」
「ショパンなのか?今の」
「ショパンの革命だよ、知らないの?有名じゃない」
 ワルシャワがロシア軍に占領されたことを嘆いたショパンが、祖国ポーランドにささげるために作った曲だとかなんとか四宮が説明するのを、テルはぼんやりと聞いていた。
 普段はクラシックなんて、耳にした途端に寝てしまうけど、こうして指の動きを間近で見ていると…本当にすごい。

「革命はちょっと難しい曲だから、ボク程度のレベルだと、完成度がちょっとね…下手でごめん」
 テルはあわてて首を振った。下手なんてとんでもない。同じ人間の指の動きかと思って見とれていたと言うのに。

「こんなのはどうかな?『蝶々』」
 再び、四宮の指が鍵盤の上をはね回る。今度は、刺すようなイメージの先ほどの曲に比べ、確かに蝶が飛び回っているかのような楽しい曲調だ。
「かわいいだろ」
「うん♪」
 短い曲らしく、すぐに四宮の指は鍵盤の最後の音を、抑えるように止まった。

「楽しいイメージの曲なら、こんなのもあるよ…『黒鍵』」
 四宮の手が、また跳ねるように鍵盤の上を動いた。暖炉の前で踊っているような、暖かいイメージの楽しい曲だ。左手が大きく動き、強く鍵盤を叩く。曲調も様々に変化して…やがてなだらかに終曲。
「これは練習曲さ。右手の指が、黒い鍵盤しか叩かないから黒鍵って言うんだよ」
「へえ」

「君にあう曲は…これかな」
 ニヤニヤしながら、再び四宮の指が、鍵盤の上を動き始める。
 震えるように始まった細かい音の連鎖は、すぐに音の幅を広げ、楽しげなリズムを作り出していく。細かく鍵盤の上を跳ねる指が作り出す音は、手堅い動作で細かい音のアーチを作り出し、それが高くなったり低くなったり。また、小さくなるかと思うと、今度は極端に大きくなったりと、形を変える音の噴水のように変化する。
「…何?これ?」
 自分に合う曲といわれ、気になったテルが訪ねると、四宮はクスクス笑いながら、答えた。

「子犬のワルツ」

***

 ずっと書きたかった話なのですが、なんのオチもストーリー性もないので悩んでました。まあいいや。
 四宮先生の家でいちゃいちゃしてるとこ…
 各曲については、曲名を「ショパン」と合わせて検索かけると、MIDIがいっぱいネット上で配布されているので、結構簡単に聴けると思います。全部ショパンです。
 「子犬のワルツ」だけCDを持っていないので、ネットで探して聴き直したのですが、MIDIによって全然曲調違うでやんの; 文章書き直しになりました(^^;)