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キミなんて好みじゃない
(四宮ver.)
「見ちゃった〜v」
帰ろうとしていた四宮は、胡美にそんな言葉をかけられ、怪訝な顔で振り向いた。
「…何の話さ?」
「昨日、退勤の時、テル先生とロッカールームで…」
「!」
四宮はあわてて手で胡美の口をふさぐと、周りを見渡した。ラッキーなことに付近には誰も居ない。
「水島先生。ちょっと、人の居ないところで話さないか?」
「あ、じゃあ、うちの医局で♪ もう、韮崎先生も部長も帰ったから」
四宮は胡美の言うとおり、麻酔医局の部屋に入ると、後ろ手にドアを閉めた。
「水島先生、一応確認しておきたいんだけど」
自分で自分の首を絞めることになってしまっては元も子もない。
「キミが見たものって?」
「昨日、テル先生と、ロッカールームでこっそりキスしてたでしょーっ!つきあってるの?」
最悪だ。四宮は頭を抱えた。
「水島先生…悪いけど、そのこと、黙ってて…くれないか?」
「え?なんで〜?まあ、じゃあ、質問に答えてくれたら、黙っててあげてもいいけど?」
悪気はないのであろう言葉に、四宮はうんざりして溜息をついた。
「OK。お手柔らかに頼むよ」
「本当につきあってるんでしょ?どっちから告白したの?」
「ボクから。…ねえ、いい?質問は3つまでで頼むよ」
四宮はふう〜…ッと何度めかのため息をつきながら、胡美に釘を刺した。この調子で、どれだけのことを根ほり葉ほり聞かれるか分かったものじゃない。
「じゃ…二人はどこまで行ってるの?」
「キスまで」
厳選して選んだ質問に帰ってきたのが、期待していたほどの答えじゃなかったらしく、胡美はぷうっと頬を膨らませた。
「あとひとつだから。これで、言いふらすのはやめてくれるんだろう?どうぞ」
「じゃあ…どうしてみんなに知られるのがイヤなの?別にいいじゃない」
「………………」
四宮は胡美を冷たい目で見下ろしながら、肩をすくめた。
「幸せだよね、キミは」
「な、何よ?」
むきになって胡美が聞き返してくる。
「どういう意味?」
「ボクの危惧も何も、キミは考えてみてくれようともしない。せめて理解だけはしてくれるように頼むよ」
四宮の口調と、バカにしたような仕草が気にくわないらしく、胡美は面白くない顔をした。
「ねえ…、水島先生は、テル先生のこと、どう思う?恋愛対象として…」
「テル先生は、人間としては好きだけど、恋愛対象の好みじゃないわ…」
「フッ…」
四宮は含み笑いを漏らすと、医局内の机により、机上に掌をついた。
「ボクだって、テル先生なんて全然好みじゃないよ」
「じゃあ、なんでテル先生とつきあってるのよ?」
「それは…」
四宮は少しの間、微かな笑みで目を閉じたあと、続けた。
「彼の魅力を、見つけてしまったから」
「え?どんな魅力?」
「そんなの、口では巧く説明できないさ」
四宮は机の横を少し歩くと、窓ぎわに寄った。
「気付かない者には見えないから」
ガラスに映った半透明の自分の姿を、四宮は今度は少し険しい顔でじっと見つめた。
「今は、誰も気付いていないから、テル先生をそんな風には見ていないから…でも、気付いてしまったらそうはいかない」
「みんながテル先生メロメロになっちゃうって言うの?」
「彼には、人を動かす何かがあるから…そうだな、足下のしっかりしている人は大丈夫かも知れない…でも、揺さぶられて振り返ってしまったら」
「四宮先生、振り返っちゃったの?」
「ご想像に任せるよ」
四宮は含み笑いの表情で振り返ると、胡美に視線を向けた。
「とにかく、ボクは、そういうトラブルはごめんなのさ。キミがボクらの噂を流したりしたら、今までそんな風に見てなかった人まで、彼をそう見てしまうかもしれないだろ?」
「なんだかよく分からないけど…」
「あと」
四宮は、ビッと胡美に指を突きつけた。
「もし、ボクらの関係が、他のみんなに知られたら、どうなると、キミは思う?」
「みんな、喜んで応援してくれると思うけど」
「だから、キミはおめでたいんだよ…。ハ、まったく」
「何よぉ」
胡美はさっきからバカにされているようで面白くないらしく、カッカした口調で応えた。
「職場に恋仲の二人がいたら、片方は辞めさせられるのが定石だろ」
「え?そ、そう?」
胡美は戸惑って、目をぱちぱちさせた。
「そ、そうかなあ、この病院はそんなことないと思うけど…」
「…仕事は、やりにくくなると思うけど?色々、想像してみたらどう」
「う…」
確かに、ここのスタッフ全員が、そういう偏見を持ってないとは言いきれない。
「仮に辞めさせられなかったとしてもだよ…応援なんてしてくれるわけがない。何かのトラブル、何かのミス、そういったものが起きたときに、ボクらの関係を持ち出されて、そのせいにされるのがセキのやまさ…いいかい、水島先生、ボクはね」
四宮は水島に詰め寄ると、彼女の眼前に、念を押すように何度も指を突きつけた。
「仕事に、関係ないプライベートを持ち込むのが、大ッッッ嫌いなんだ!彼とのことが明るみに出て、仕事のあんなことやこんなことをそれに結びつけて邪推されるなんて、まっぴらごめんなんだよ!」
「あ…う」
いつも邪推していた胡美は、声を無くして上目遣いで四宮を見上げた。
「いいかい、水島先生」
四宮は、腕組みして凄みのある笑みを口元に張り付けると、
「もし、キミが誰かにボクらのことを喋って…それが原因で、ボクとテル先生の仲が上手く行かなくなったり別れたりするようなことがあったら、絶対、一生!許さないからな…何年かかっても復讐して、キミの恋愛の邪魔をしてやるからそう思っとけ」
「そんなこと…しないわよ」
「分かるもんか。なんなら、念書書くか?証文書くか?約束破ったら裁判起こすからな?」
「言わないわよぅ」
困った表情で胡美は言うと、「じゃ…」と医局を出ていこうとした。さすがに、ヤバイ話題に触れてしまったと思ったらしい。
「忘れんなよ!?」
その背中に四宮の声が突き刺すように飛ぶ。「はいー!」と返事すると、胡美は去っていった。
「さて…」
四宮は麻酔科の医局を出ると、テルを捜しつつロッカールームに向かった。
胡美とのことは憂慮すべき事実ではあるが…あれだけ釘を刺しておけば、まあ…しばらくは大丈夫だろう。
*
ロッカールームにテルの姿を見つけ、食事に連れて行くと、驚いたことに彼は、自分の分の会計は自分で払う、と言いだした。いつも四宮が払っているだけに驚きだ。
「今日はどうしたの?給料出たばかりでもないのに」
「べ、別にそういう日もあるだろ?いつもお前に払わせるの…悪いしさぁ」
なんだか元気のない様子。
テルのその調子は四宮の部屋に行ってからも同じことで、彼はややうつむき加減のままなかなか浮上してこない。
一体、どうしたって言うんだろう?四宮は不思議に思ったが、つついて蜂を出すのもなんだと思ったので、少し様子を見ることにした。
「四宮…」
急にテルが、四宮に向かって話しかけてきた。
「…ン?」
「オレって…お前の何?」
「同僚」
「それだけ?」
「…プライベートでは恋人。…違った?」
四宮は床に腰を下ろすと、今度は自分が、ベッドに腰掛けているテルを見上げた。
「今日、何か変だよね。どうかしたのかい?」
「じゃあ、水島先生は?」
「水島先生は、ただの同僚。…なんで?」
さっき、会話したばかりの水島のことを思いだし、四宮は少し不機嫌な声になった。…本当なら、テルとの関係は誰にも知られたくなかったのに。
「テル先生、今日、ちょっと変だよね。…何かあった?」
「あの、さ…お前の…好みってどんなの?」
「好み?」
「そう、好きなタイプ」
「タイプね…」
四宮は少しの間、視線を巡らせて考えると、
「うーん、そうだな、よく気がつくタイプかな。あとは、女を前面に出さない人がいいよね…異性を感じさせないと言うか…それでいて、情が深いって言うの?」
「…水島先生みたいな?」
「は?」
四宮は、眉間にしわを寄せてテルを見た。だからなんで水島!?
「水島先生なんて、全然タイプじゃないよ…やっぱり、ナースで言えば、綾乃さん、佐野さん…か。桃瀬さん…は、結構気を回してくれるタイプだけど、ちょっと苦手かなあ…」
「…やっぱ、女がいいんだな」
「そういう意味で聞いたんじゃないの?」
四宮は何がなんだか分からずにテルを見返した。
「オレって、お前のタイプ?」
テルに聞かれ、四宮は一瞬、頭が真っ白になった。
「な、何言ってるんだよ、キミ、おかしー…」
「答えろよ!」
急にテルの声が荒くなる。…また、一体何故?
「え?…どうかしたの…か?」
「オレってお前のタイプ?」
「…そんなわけないだろ…。何言ってるんだろうね、まったく…」
四宮はテルの傍にある新聞を自分で取ると、
「あ、今日、ターミネーターやるぜ」
「そんなのどうでもいいんだよ!」
テルが四宮の手から新聞をひったくった。
「…テル先生?」
「…やっぱ、つきあうの、やめようか、オレ達」
「…………」
四宮は、唖然としてテルを見つめた。
「テル先生、キミ、本気で言ってるのか?」
「だって、オレ、お前の好みじゃないんだろ?」
「じゃあ、ボクは君の好みなのか?」
「オレは、そんな、好みなんて考えたことなかったし、経験もないから…」
分かんないよ…と呟くと、テルはのろのろとベッドから立ち上がった。
「今日は…帰るよ、ごめんな…明後日、病院でな」
「待てよ!」
四宮はあわてて自分も立ち上がると、テルの腕を掴んだ。
「何、言ってるんだよ?急に…」
「今日、帰る前の…水島先生との会話を聞いたんだ」
「え?あ、ああ」
四宮は相づちを打つと、
「で、…何?」
聞かれて困るようなことは言わなかった気がするけど。それとも、実は、みんなに吹聴したかった?まさか。
「っていうか…どの部分を聞いたのさ?」
「…テル先生なんて全然好みじゃないよ…ってとこ…」
「…ああ」
なるほどなるほど。それで彼の今日の、妙な態度も説明できる。
四宮は大きく息をつくと、逃れようとしたテルの腕を更に強く掴んだ。
「逃がさないよ」
さてさて…。どうやって、彼に教えてあげようか?
この想いの深さを。
end
アトガキ
四宮先生の、恋愛論…ですね
ヴァルハラはとても暖かくて働きやすい所だけど、でも恋愛関係が知られたらやっぱり色々やりにくいと思う(^^;)
子ネタなのに長くなりすぎました(><;)
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